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「それで、うちに何の用だったのかな?」
「あ、あの…な、まえ」
ひとまず少女を家の中にいれ、訪ねて来た理由を尋ねる圭介。少女は消えそうな声でなまえと呟いた。
「なまえ?俺の?……圭介、だけど。それがどうかした?」
少女の呟きに圭介は自分の名前を答える。少女はその答えを聞き瞳を潤ませる。
「えっ、あ、ちょっと、どうしたんだよ。なぁ、おい」
「…ひっく、け…す…。えっく…見つけた…けいすけぇ」
なぜか圭介の名を聞いた途端泣き出す少女。圭介はどうしていいかわからずただ泣きじゃくる少女を見つめることしかできない。
しばらくすると泣きじゃくる声は収まり少女が鼻をすする音だけが響くようになった。
「あの……大丈夫?」
「ふぁい…ずみばぜん。うれしくてつい」
少女は圭介の問いに鼻水をかみながら答える。その顔は先ほどよりもずいぶん明るく見える。
圭介も少女の様子が明るくなったのに気づき少しほっとする。飲み物を差し出し話を続ける。
「それで、さっき俺を探してたって言ってたけどあれはいったい…」
「はい。ずっとあなたを、圭介さんを探していたんです」
「探してたって…どこかで会ったことあったっけ?」
少女の言葉に圭介は改めて少女の顔をまじまじと見つめる。羽織っている布でよくは見えないが長い髪に整った顔。
記憶を掘り起こそうと少女を見つめていると少女と目が合う。少女は少し照れたように笑う。やはりその顔に見覚えは無いらしい。
「えっとさ、どこかであった覚えが無いんだけど人違いとかじゃない?」
「いいえ。確かにあの時助けてくれたのはあなたですよ、圭介さん。覚えてませんか?」
少女の事を覚えていないと言う圭介の言葉に首を振り、圭介の目をまっすぐに見据える。
その少女のまっすぐな視線で冗談では無いと思いもう一度記憶を洗いなおす圭介。
(まったく覚えが無いんだよな…そういや助けてもらったとか言ってたな。…助けた?)
腕を組み考え直しているうちにある出来事に思い当たる圭介。
「そういやちょっと前に車に轢かれそうになった子猫を助けたことはあるけど…関係無いしな…あ?」
独り言のように呟く圭介。ふと視線を感じ顔を上げると少女が期待の眼差しを向けていた。
「いや、助けたって言っても子猫なんだけど…。まさかその子猫の飼主?…でも猫が名前分かるわけないし…」
「わかり…ませんか?」
「ん~…あの場には確かに俺と子猫しかいなかったし…まさか猫が人になったり、なんて事漫画じゃないんだし…へ?」
圭介は自分でも馬鹿げていると思う仮説を口にする。しかし少女はうれしそうな表情をし、さらに頭に被っている布の下で何かが動いている。
「あ…のさ。聞いていいかな?」
「はい?なんですか?」
「その…布の下…何が動いてるの?」
少女の感情に連動するかのように布の下で何かが動いている。圭介は少女の頭を指差し問いかける。
「これですか?…なにって…耳ですよ?あ、あとしっぽです」
少女は圭介の問に答えながら頭を覆っている布を取る。すると人のものでは無い獣、恐らくは猫の耳と同じく猫の尻尾とが現れた。
「は?耳?しっぽ?……え?夢?」
圭介は少女の体から生えている耳と尻尾を見ながらも現実を受け入れる事ができずにいた。
圭介が見つめる前で、耳はピコピコと動きしっぽもまたフリフリと少女の今の感情を表すように揺れてる。
「ちょっとごめん」
圭介は少女に一言言うと少女の耳に手を伸ばす。
「…柔らかい…それに暖かい…まるで本物みたいだな…」
「ひゃっ、けいすけさ、んっ。んんっ、はぁっ…」
触れた耳は本当の猫の耳のように柔らかく、毛の感触も本物のようだった。そして何より温かく、作り物ではなく確かに血が通っている事が感じられた。
しばらく耳の感触を夢中で触っていた圭介だったが、少女の様子がおかしいことに気づき手を放した。
「んんっ、ふぅっ…はぁはぁ…けいすけさぁん、触り過ぎですよぉ…」
「あっ、ごめん。つい…」
圭介の手から開放された少女は椅子の背もたれにぐったりともたれ掛かり、荒くなった息を整えようと深呼吸をしている。
圭介は少女の耳とさっきまで触れていた自分の手を交互に眺める。やはり先程の感触は本物で、少女の耳も本物らしい。
「あのっ、私、あの時助けて貰った猫です。…信じてはもらえないかもですけど……あ、この前の時の背中、大丈夫でしたか?」
「…いや、信じるよ。触ったから分かるよ。その耳は本物だ。それにあの場にいないと背中の事は分かんないし」
当事者でしか知り得ない事を口にする少女。その言葉で圭介は少女が助けた子猫だと確信したようだった。
「けいすけさん…よかった、信じてもらえて。信じてもらえなかったらわた…くちゅっ」
少女の言葉は突然のくしゃみで途切れる。よく見ると少女は全身びしょ濡れで寒さで震えていた。
「とりあえずさ、色々話したいことはあるだろうけどそのままだと風邪引いちゃうから。シャワー浴びておいで」
圭介は少女の目線に高さを合わせそう告げる。少女も圭介の言葉に頷くのだった。

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